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熟成肉120日。

熟成状態が今日(12月4日)で120日を超えました。フランスでは4週間〜8週間で提供していたことを考えるとその倍以上の熟成期間となります。

フランスで当時学んだ教えの中で、肉を熟成させていく過程において一番気をつけなければならないのは”脂だ”と言われた事があります。肉は脂を食べると一目瞭然。その香り、質感、舌触り、味わいで、すぐわかります。
熟成肉の師匠ウィリアムに、もし日本で熟成肉を行なった場合、そして、それが和牛であった場合について聞いてみたことがあります。
「肉を熟成させていく過程において一番気をつけなければならないのは”脂”だ。まず脂の部分から、黒カビがはえてしまったり、腐敗が始まり傷んでゆく。だから和牛のような霜降りの入った肉はより神経を使わなければならないだろう。
脂が腐敗すると、腐敗菌が、脂を伝って、肉の内部まで入っていく。それが霜降りともなれば、菌は筋繊維のどこへまでへも入っていけるだろう。そこへ加えて日本の湿度だ。何でもすぐ腐る日本のそれは湿度が大きく関係しているわけで、霜降りという菌にとってアドバンテージのある和牛と湿度のコンボ。それを腐敗させずに熟成させるのは非常に難しい・・・どころの騒ぎではないだろう。脂が傷んでゆくのを、手入れによって、防ぎ、または遅らせていったとしても、その熟成における期間は確実に短いものになるだろう。だから和牛は熟成には向かないんだ。」

と、熟成の師であるウィリアム・ベルネもユーゴ・デノワイエも、2人揃って否定的だった。何より、和牛というのは、熟成によって得られるはずの柔らかさと、肉の旨味(脂由来)を熟成とは別の角度から突き詰めたもの。巧みな飼育の技術により、肉に内包される脂の霜降りを極めたもの。熟成させて初めて得られるとされたメリット(柔らかさや、凝縮感のある旨味)を屠殺した時既に得られているという日本が世界に誇る驚きの技術だ。その肉を使って、なぜわざわざ熟成させる必要があるのか。

確かにそのとおり。と、当時僕も頷いたものです。

でも、熟成肉の香りと旨味は、和牛のものとはやはり別のもの。もちろん和牛も素晴らしいし、その技術には、いち日本人として誇りに思っている。しかし、自分の店がフランス料理で貫くならば、そこもやはりこだわりたい。フランスで使っていたような熟成肉を使った料理を日本のお客様に振る舞いたい。

その思いを胸に秘め、いざ自分の店を開くべく日本に帰ってきて、熟成肉をはじめようとして、まず困ったのは肉の品質だった。(骨付きが手に入らないという問題が起きたのは、この頃よりだいぶ後。)
僕は、フランスに7年以上滞在し、いろいろな事を学んで来たけれど、逆に日本の流通に疎くなってしまったことにここで初めて気が付いたのだと思う。
実際フランスでの方が精通しているし、イヴ・シャルルという頼れる師匠もいる。
ウィリアムやユーゴが使っていたような熟成に適した肉が、日本で、どこへ行けば手に入るのかが分からなかった。帰国したばかりで、六本木でシェフを任されていた頃。

日本中にある素晴らしいと言われる畜産農家の方々のもとをまわり、牛を一頭一頭見定めて探している時間なんて僕にはなかった。35歳で店を開ける。フランスに渡る前から決めていたこと。フランスでもそこから逆算して、それぞれの職場で必死に経験を積んで来た。そして35歳になる一ヶ月前(2010年12月18日)に僕は完全帰国した。さあ、ここからの一年で店を開くぞと固く誓い、店の候補地や、調理機材の店をまわる。そんな中で、最高の赤身肉を求めてオーストラリアや、アメリカへ渡るなどおおごとすぎる。不可能。僕には、お金も時間も、日本での食材の流通事情に秀でた友人もいない。頼れるのは、自分の経験と、知識だけだった。
まずは、肉を食べにいこう。日本の牛肉事情を肌で知りたかった。
六本木の店で取引のある肉屋に熟成肉の話をし、それに適しているだろうと持ってくる肉を見る。業者も、熟成には赤身肉がいいらしいとは知っているらしく、赤身肉を持って来るがピンと来ない。熟成肉の有名なお店へも食べにいった。熟成肉の日本の本も読んだ。これじゃない。それでもない。いつも思っていた。聞く人聞く人に熟成に適する肉は赤身だと言われ、それは分かるがこの肉じゃない。
だんだん、自分がおかしいのではないかとすら思えてきた。

何が違うのだろう。違うと思えても、”なにが”かが、分からなかった。フランスで、ウィリアムの横で見てきた肉と何かが違う。色、もちろん違う。質感、もちろん違う。
違うと言うか、劣っていると見える事が問題だった。
きっと、違ってても、いいと思える肉はあるはずだった。でも、そんな肉がなかなか現れない。そこから何を探せばいいのか。悩み、考え、時間がかかって、やっと言葉にできる日が来る。

僕にとって、その時点で知りえた日本の赤身肉(きっとまだまだ無知な僕の知らないところでは素晴らしい肉があると思います)を言葉にすると、”痩せて”いたのだった。

やっと違和感を言葉にできた。
赤身肉=脂の少ない肉=引き締まって、余分な体脂肪がない肉とみんなが考えているみたいだった。
僕が欲しいのはそれじゃない。丸々太って、体格のいい、筋骨隆々な、引き締まっているけれど筋繊維に脂が細かく入っている、充実した牛。そんな肉。それが、なかった。いや、きっと、どこかにある。でも、日本の食肉の流通に全くツテのない僕にはきっとその肉を得るまでもう10年はかかるだろう。そう思った。
そんなことしてられないんだ。そんな事してたら45歳まで店を開けられないの?結婚なんて当然出来ないだろう。僕は何歳になれば自分の子供を抱けるのだろう?果たして抱けるのか?

そこで、僕がとった方法は、赤身肉を探すという無理を捨てようという選択。そもそも、なぜ赤身じゃなきゃいけなかったのか。
周りの全ての人が赤身肉の方がいいと言う。はい。僕もそう思う。だけれど、僕が思い描くのは、フランスの、ウィリアムや、ユーゴが使っていたトップクラスの赤身肉であって、日本のその辺にあるような赤身肉じゃあない。きっと日本のトップ(熟成に最高に適した)の赤身肉は凄いのかもしれないけれど、今の僕にはそこへ辿り着く道が見えていない。それならば、どこへゆくか。行く先を変えるしかないじゃないか。 日本の誇る技術、和牛の系譜から、ウイリアムや、ユーゴが使っているような理想の熟成の為の肉が見つかるかもしれない。そう考えたのでした。

そこからは早かった。

和牛系を探し始める前の頃は、当時の肉屋さんにとって全く専門外の「熟成肉に特化した赤身肉」などと、「どこが特化してりゃーいいんだい、ハイソウデスネワカリマシタ」という具合で、まるでノラリクラリされるばかり。
でもよくよく考えればそうもなるわけで、海外の熟成を見てきた僕にしか分からない肉の特徴を、こんな感じ、あんな感じと曖昧に伝えていて、しかも僕自身どう伝えれば分かってもらえるか手探り状態でやっていて、それで探せなんてそりゃ無理なわけで、本当に申し訳ないと当時を反省しております。

そして、逆に、日本の誇る技術、和牛の系譜から探そうと気付いた後、僕の方が頭を切り替え、こんな肉の和牛系が欲しい、こうじゃなくてもう少しこういう感じの和牛系、なんて言うようになると、そこはさすがに得意分野とみえて、すぐに当たりを付けて探しだしてくれた。こうして、いま、クルティーヌでは、和牛系(詳しくは書けませんが)を選択しています。


そして、骨付の牛肉が仕入れれらないという壁にぶち当たり、そこから3年かかって、やっと、やっと熟成肉が始められる事となる。


さて、ここからがやっと始まり。
ここからはクルティーヌで、手探りの熟成肉が始まります。
フランスでたくさん習ってきたし、見てきたし、自信もあるけれど、和牛系じゃなかった(フランスに無いし。)。 怖い。 すぐ腐るのかも。 一個の熟成肉の塊を腐らせてしまった時の損失を考えると・・・(電卓)・・・いや、考えないようにしよう。手に持った電卓は打たずに置いた。

それが、2014年6月(このブログの頃)に熟成肉を始めた頃の僕のもう一つの本心。 熟成に関しては、人に負けない自信はある。出来るはず。フランスでは4〜8週間の熟成だった。それならば、短くなると言われる日本でならばきっと4週間くらいだろう、和牛だから腐るのが早いらしいし、3週間くらいの熟成でまずは様子を見るべきか、などと日々せわしなく考える。3週間経ち、いっぱしに熟成の香りが漂ってきた時の喜びはここで書く迄もない。それは、当時のブログからも分かると思います。

ヒヤヒヤしながら、慎重に熟成を進める日々。まだいける。もう少し先へ。まだ大丈夫か?そう繰り返し、毎日肉と語らいながら営業を続ける。
そんなこんなで、気付いたら10週を越えた。
あれ? おかしい。 フランスより熟成は短いはずなのに。しかも和牛系を使っているのに。

なぜ? 分からない。僕の味覚がおかしいのか?

でもお客様も旨い、美味しいと舌鼓を打ち、僕も絶対に旨いと思う。
そんな時に、一人の常連様に頂いた言葉。
「この間100日熟成の熟成肉を使った料理を食べてきて、最高でした〜」
と。
まさに目から鱗。

8週だの10週だので、一喜一憂していたのにその倍近く?

そのシェフに出来て、僕に出来ないはずがない(自信過剰)というわけで、そこからは100日熟成を目指す事となりました。
頼れるのは自分だけ。自分の感覚を信じ、妥協せず、一切を見落とさず、熟成を管理してゆく。

そして、11月9日のウイリアムの来店で、晴れて、ウィリアムからのお墨付きを頂き、それまで自分の心にあった一抹の不安、心配が一息に吹き飛び、大きな自信となったのでした。
ちなみに、脂でそのコンディションが分かると、その昔、僕に教えたウィリアムのそのお墨付き時の言葉は、「カズ、おまえのこの熟成肉、これは素晴らしい。脂を食べてみろ。ここだよ、ほら、旨い。まるで骨髄みたいだろう」でした。フランス料理に携わるものとして、最高の褒め言葉でした。

そして、今日は、とうとう120日熟成。非常に神経をすり減らし管理する日々。僕にとって、まだ見ぬ子供を育てているような、そんな気分(ちょっと大げさかな)。面倒を見れば見るほど、美味しく食べて頂きたいと努力したくなる。そこに気持ちがどんどん乗ってゆく。その熟成肉の塊から注文の入った一人分の肉を切るタイミング、周りの壁を落とす時の感動と、気遣い、をあてる場所、タイミング、焼く方法、焼き加減、オーブンの温度、時間、取り出して肉を休ませる場所、温度、時間、皿の上に一緒にのるもの・・・・・。 全てに一層心を配りたくなる。ひとたびそうなると、その気持ちは他の食材へも波及し、今日、触るすべての食材に対し、以前よりも優しくなった気がします。


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by courtine | 2014-12-07 03:43 | 今日のピックアプ

カスレ。

来ました。ついに。
お待たせしました!(本当にスイマセン。)”カスレ”です!
無茶言って取り寄せたので、フランスで手配に少し手こずりましたが(元々11月3日納品予定が、10日になり、最終的に18日納品。さすがフランス、予定通りということがない。)飛行機でフレッシュが届きました。クルティーヌで使用するのは真鴨。手羽、砂肝、首皮、心臓です。これをマリネして、一昼夜かけてコンフィにします。

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そして、カスレの本場であるカルカッソンヌとトゥールーズ(そこにカステルノーダリを加えた3カ所は、互いに自分の街のカスレが起源だ、こちらの方が旨いと言い合いを続けている因縁の関係)でも使われる白インゲン豆が到着。
僕が過ごした南仏ポーの隣町、"タルブ"でとれる、世界最高の白インゲン豆(アリコ・タルベ)。こちらも空輸で届いて、後は煮込むだけ。
とにかくお待たせしてしまいましたが、パリ時代から続く、イヴ・シャルル秘伝のこだわりの一品ですので、ご容赦下さいませ。加えて、特製ソーセージと、ヴァントレーシュ(筒型のパンチェッタ)も入ります。 首を長くしてお待ち下された方々、やっと、やっと明日から提供をスタート致します。

パリの頃のクルティーヌのカスレコースもそうでしたが、カスレの本場では、前菜にフォアグラのテリーヌを食べた後にカスレを食べ、前菜のフォアグラからカオールの赤ワインを開けます。もし本場さながらの気分を味わいたいのでしたら、ランチ、ディナー両方にフォアグラの前菜をご用意していますし、カオールの赤ワイン(黒ワインとも言われるしっかり系)もございますので、お試し下さい。
ちなみに、よくある鴨(豚)の脂たっぷりの、脂ギトギトカスレを想像すると、前菜にフォアグラは厳しいですが、ラ・メゾン・クルティーヌのカスレは脂を控えたうえでしっかり美味しいカスレです。

僕の個人的なオススメは、やっぱり前菜にサラダを食べてメインにカスレ、ワインはラングドック地方(トゥルーズの隣り。カステルノーダリとカルカッソンヌのある地域)のフラキエの赤。 意識してた訳ではありませんが、結果的に郷土料理に合うのは郷土のワインということですね。

カスレは時間を掛ければ掛ける程においしくなる料理です。もし、カスレをメインに召し上がると決まっていましたら、ご予約の際にお申し付け下さることをオススメ致します。ご来店時間に合わせて、オーブンでじっくり煮込んで、しっかり焼き色をつけて、カスレ表面に出来る旨味の膜を作っては壊し、作っては壊しを繰り返してお待ち致します。(本場のカスレ名人はオーブンの中に入れられたカスレの表面に出来る焼き色の膜を時間をかけて作り、壊して混ぜ入れては、また膜が出来るのを待ち、膜を作ってはまた壊して混ぜこむのを7回繰り返すと言われます。その膜がえも言えぬ香りと旨味をカスレにもたらします。)

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↑ オーブンでじっくり焼き煮込み、お客様に状態を確認頂いて、

↓ 32cmの大皿にサラダとともに豪快に。
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ボナペティ!


では、お待ちしております。
by courtine | 2014-12-05 22:35