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リエーブル ア ラ ロワイヤル

「リエーブル ア ラ ロワイヤルが食べたい。」

開店2年目、ジビエ料理を提供していた頃に常連のお客様に言われたこの言葉が発端でした。

リエーブル ア ラ ロワイヤル。ジビエ料理の最高峰と言われる”野兎の王家風”という料理。
フランスでも滅多にお目にかかれません。

フランス料理ほど料理工程の多い料理を他に知りません。料理法、技術も多岐にわたり、時間と手間のかかる料理がたくさんあります。そのフランス料理のなかでも特に技術が必要とされるのが、ジビエ料理。ジビエ料理は、その狩猟期間が限られるため、技術の研鑽もその期間に限られます。その中でも、ベキャスはジビエの王、リエーブル はジビエの女王といわれています。

日本ではまずお目にかかれない料理なので、フランスへわざわざ行って食べられるレストランを探すのですが、リエーブル ア ラ ロワイヤルに出会える機会は本当に少ない。ジビエ料理に特化したレストラン、マニアックなレストラン、超高級レストランで、ジビエ料理に心酔する(気の狂れたシェフと言っても過言ではない)料理人が、稀にメニューに載せているといった感じでしょうか。

いや、良識あるレストランではまず提供出来ません。星付レストランでさえ、出せる店は限られてしまいます。
それはなぜか。

まず第一に、その料理の難易度が非常に高いので、それだけの腕前を持つシェフに限られることと、そのシェフがリエーブル ア ラ ロワイヤルと真摯に向き合い、古書を読み、師と出会い、教えて頂いた経験がなければ、美味しく提供することが非常に難しいということが挙げられます。
この料理は、一朝一夕に完成するものではなく、過去の偉人達が、積み上げ、研鑽を続け、師から弟子へと受け継がれながら、少しずつ高められて来た経験をベースにしているから、あの厚みと複雑な旨味のある味わいになるのだと思います。

第二に、この料理の食材費が馬鹿高いということも挙げられます。高価な野うさぎ、その中に入るフォアグラ、そのうえフレッシュのトリュフが丸のままごろごろ入ります(入らないものもありますが。)。そして、ボルドーや、南仏などの厚みのある赤ワインを非常にたくさん使い、コニャック、アルマニャックもふんだんに使用します。

第3に、その二つの高いハードルを乗り越えて作り上げても、今度はその目玉の飛び出る値段とリッチな厚みのあるソース、重みのある一皿を食すことの出来る(支払えるだけの懐具合と、食べきれるだけの胃袋の強さを持つ)お客様に恵まれなければなりません。しかも、1羽仕込むと、12人前くらいの量が出来てしまうので、その量を美味しいうちにお客様にお召し上がり頂ける(そういったお客様を普段から顧客として抱えている)レストランでなければその価値が半減、ややもすれば原価(食材費)すら回収出来ないという事態となります。

もし売り切れなかった場合、または技術がたらず失敗してしまった場合のそのリスクを考えると、そう簡単にメニューに載せられる料理でないことは想像がつくと思います。

食せるのはジビエの期間(晩秋から冬)に限られ、ほぼ2つ星以上(例外はあります)のレストランに限られ、しかもその高価な値付けばかりのメニューの中で一層高価な価格がつけられている料理。しかも大抵の場合4名様以上での注文をお願いされる(最低4人でレストランへ行き、4人ともがリエーブル ア ラ ロワイヤルを注文しなくてはならない。)という、食す為に乗り越えなければならないハードルが多すぎる料理。

そのような料理を人生で何度も食すことの出来る人は、よほどの食通か、ジビエ料理に心酔する(少し気の狂れた)料理人達くらいでしょう。

その料理の難しさは、ひとえに、リエーブル(野うさぎ)の肉質が持つ特徴がもたらすものです。
ジビエの食材の中でも特に野獣臭が強く、肉質も非常にパサつき易く、硬くなりやすいのです。
この食材を美味しく食べるには、並大抵の技術では追いつかない。
臭い、硬い、パサつく。そんな肉など、わざわざ好き好んで食べなければいいのにとさえ思う。それほどの料理人泣かせな特徴を持ちます。

この料理はフランスの古典料理と言われ、この料理の歴史は15世紀にも遡るそうです。

昔は王様が狩りへ行き、仕留めた獣を王が食べたいと言えば、王が旨いと言うよう、生死をかけて料理するのが宮廷料理人の使命でした。まずいと言われればまさに首が飛ぶ。そのため、多くの宮廷料理人達は必死に試行錯誤を繰り返し、料理を極めて来たのだと思います。その中でも、先程言ったように、臭く、硬く、パサつき易い肉質を持つ野うさぎなどは、とても料理人泣かせの食材であったこととおもいます。

さらに、昔の人は歯が弱い。美味しいものばかりを食べる王様もご多分に漏れず、硬い肉を噛み切るほど健全な歯ではなかったそうで、何でもとろける程に柔らかくなければ食べられなかったと言われています。硬い肉である野うさぎは、この観点からも宮廷料理人へ計り知れない苦悩をもたらしたことでしょう。

王家の一皿とまでいわれる、贅を尽くし、時間と労力と知識と技術を尽くし、精神を疲弊させて初めて作ることのできる料理。おのずと作れる者は限られていったのでしょう。フランス革命後、宮廷から街場のレストランへと料理人の活躍の場は移ってゆきますが、この、王のための料理であるリエーブル ア ラ ロワイヤルの存在は、当時の書で語られていても、細かな作り方まで言及する書はとても少ないように思います。


2008年から2009年にわたりフランス料理の大御所ムッシュ アラン・サンドランスのもとで仕事した時も、料理人が全員帰った後に、シェフと、2人の二番シェフが、調理場に残って数日かけて作っていました。なぜかと聞けば、調理時にその獣臭がレストラン中に充満して、ひどく臭い(日本の野うさぎはあまり臭いませんが)ので影響の少ない夜中に仕込みをするのだと言っていました。
今思えば、料理のひとつひとつの行程を、集中して段取りよく、一気に料理しなくてはならない手際の良さの問われる料理ですから、夜中に何の邪魔もうけずに、没頭し、集中して作り上げられる状況を望むのだとも思います。ですので、その調理行程を盗み見ようにも、二番手の二人しかその場にいることすら許されないその状況は、やはり門外不出てきなニュアンスが見え隠れしているのも事実。
どちらにしても、王家の一皿と呼ばれる価値相応に気に入って頂かなければ永遠に教わることの出来ない料理ということは確かなようでした。


さて、そのようなリエーブル ア ラ ロワイヤル。
最初に書きましたが、常連様の食べてみたいという一言からはじまりました。熟成肉のブログでも書きましたが、僕は日本での食材の仕入れルートはあまり持っていません。まだフランスの方が思うような仕入れルートがあるくらいで、日本で滅多にお目にかかることの出来ない野うさぎなど、知人や付き合いのある業者に頼んでも、聞いてみても、仕入れられる気配すらしませんでした。

それから一年が経ち、二年が経ち、正直、もう、今の僕には仕入れることの出来ない食材なのだなと諦め、常連様にも、手に入りそうにないことを伝えていたのです。

ところが、先日、思いもよらず、一番最初に探してくれるようにお願いした業者から、青森県の野うさぎを1羽、お持ちすることが出来そうですとの話を貰い、是非!とお願いして、今回のリエーブル ア ラ ロワイヤルに漕ぎ着けたというわけです。

Lievre a la royale リエーブル ア ラ ロワイヤル

2009年11月、レストラン アラン・サンドランスを退社する最後の期間にムッシュ アラン・サンドランスとシェフのジェロム・バンクテルからこっそり教えて頂いたレシピを忠実に再現します。ムッシュ・サンドランスが調理場に立つ全盛期の三ツ星のリュカ・カルトンで提供されていた、アントナン・カレーム(「国王のシェフかつシェフの帝王」と呼ばれた16〜17世紀の偉大な料理人。)のスタイル。
フランスに現存する最古のアルマニャックの蔵元、カスタレードのVSOPをふんだんに使い、トリュフやフォアグラと共に香り豊かに仕上がっております。

今回、いや、野うさぎを探し始めたばかりの頃から、いろいろと伺い、教えて頂き、今回の野うさぎ入荷に至っては、ご自分で作られた貴重なリエーブル ア ラ ロワイヤルを、一人前真空パックして、ソース付で、「カズのリエーブル ア ラ ロワイヤルのヒントになれば」と言って、送って下さった“アン・ド・セジュール”の河井シェフ(三ツ星のリュカ・カルトンで、実際に二番シェフとしてムッシュ・アランサンドランスとともに作っていた方なので、頂いたリエーブル ア ラ ロワイヤルはまさに、僕が教えて頂いたものそのもの。)に、この場をかりて、改めてお礼申し上げます。

ありがとうございました!


フランスの古典料理の代表格であり、フランスの食文化を象徴するジビエ料理

リエーブル ア ラ ロワイヤル 一皿12000円   12名様限定。

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残り4名様分です。(4/10 完売しました)

ご予約お待ちしております。



河井シェフが伊勢うどんの箱に入れて何も言わずに送って下さったリエーブル ア ラ ロワイヤル。
この箱を頂いて、開けてみた時にリエーブル ア ラ ロワイヤルだと知った時、まさに感動しました。

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by courtine | 2015-03-06 11:29 | 今月のメニュー、特別メニュー
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