また同じコースを食べに来ようね。

2014年5月31日。


アヤメコース最終日前夜。
この日、19時から2名でご予約をされたお客様がいた。
名前を見ると常連さん。しかも5月2日のアヤメコース初日に来店されたからよく覚えていた。

『毎月7600円のフルコースを食べにご来店されるお2人だ。アヤメコースは既に前回食べにきてるのだけど、忘れているのかな?』
『前回のご来店を4月末だと勘違いしている? いや、たまにはクルティーヌのスペシャリテをプリ・フィクス(好きなように選ぶ)で食べたくなってのご予約なのかも』
『いやいや、いつもはご夫婦で来店されるけど、今回はご友人と来店されるのかもしれない。』

などなど、頭の中で色々考えるも、答えが分かる筈もなく。
かといって。ご本人にお電話して、アヤメコースは既に前回のご来店でお召し上がりになられていますが、大丈夫ですか?と伺うのもなんだか差し出がましい。

ま、もし、前回と違うお料理を期待してのご来店だとしてもすぐに対応出来るよう、まだこちらの常連さんが召し上がっていない料理で、5月の季節感にあったお料理を準備しておけばいいだけのこと。
このままご予約の時間を待つことにしよう。

そして当日。
19時。扉が開き、やはり時間通りのご来店。いつもご来店下さるご夫婦のお二人。
視線で微笑みかけ、会釈し、席に着かれた。
ちょっとテーブルへ伺って、真意を確かめにいきたいとも思ったけれど、他のテーブルの注文や、今手がけた料理が中途半端で、すぐには調理場を離れられそうにない。 仕方ない。
僕が調理場から離れられないことを察して、サービススタッフが注文を伺う。 すると、2人ともアヤメコースをご注文、ということだ。

驚いたけれど、メニューを見て、前回の料理を思い出さない訳がない。
同じコースでとおっしゃるのだから、同じコースを出せばいい。と自分に言い聞かせながら、そのコースははじまった。

料理人であれば常に意識する言葉『ミュー・ゾン・ミュー"de mieux en mieux"』 もっとより良く、とか、ますますいいものに、という思いを積み重ね、実は、月初めのフルコースと月末のフルコースでは、厳密に言えば、仕立て方が少しずつ変わってくる。それは、前菜からデセールに至るまですべてにいえることで、すこしずつの違いではあるけれど決して同じ料理ではない。
(これを存分に一貫性を持って出来るのは、小さなお店で、シェフがすべての料理に関わっているからこそ。)

コースはだいたい1ヶ月で変える。期間は短いけれど、料理は、作るたびに、より美味しく、より美しく、より向上していなくてはいけない。日々の積み重ね、その一皿一皿を、次はもっといい状態でお客様の口に届くように、今回は、前回よりもっと完成度を高められるように、ここはこうした方がもっといいものになるのではないか、この行程は外してしまった方がよりこの料理の良さが伝わるのでは、という思考を繰り返してほんの少しずつではあるけれど、変化してゆく。

なので、こうなれば、その、わずかな完成度の高まりを味わいに来てくれているのだと考えることにして、今月の集大成をお召し上がり頂こうと奮い立つ。
一皿一皿を今出来うる限り最良のかたちでご提供する為、冷たいもの、温かいものの温度を大切にするために、素早く動き、ここだというタイミングで、料理を仕上げる。

そして、すべてを出し終えて、食後のコーヒーをお召し上がりの際にテーブルへ伺った。

お2人は満面の笑みで迎えて下さり、『実は、前回のクルティーヌでの食事の帰り道に、歩きながら2人で、本当に美味しかったね、今月もう一度また同じコースを食べにこようね。』と、話していたそうで、ギリギリだったけれど、今日は来られて本当に良かった。今回のメニュー、本当においしかったわ。とおっしゃって下さったのでした。

普段、出来るだけお客様の食後にテーブルへご挨拶へいくようにしていますが、
その際に、『美味しかったよ』とか、『次はいつメニューが変わるの?』とか、『次も楽しみにしてるわ!』というお言葉をお客様から頂き、とても嬉しく、また励みとさせて頂いています。
でも、『もう一度このコースが食べたくって楽しみにして来ました』、と言って頂けるのも、とても嬉しいものだなぁ〜と、料理人冥利に尽きる5月となりました。

さて、6月も、そういって頂けるよう、”ミュー・ゾン・ミュー”でがんばります! 

宜しくお願いします。
by courtine | 2014-06-02 16:35
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