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ベキャス(山鴫)! 

2月18日。
2月はすでに2度も大雪になり、20日にはまた雪が降るそうで、例年に比べとても寒い今期の冬。
皆様とともに、クルティーヌも頑張って乗り越えたいと思います。

さて、ジビエも、もうそろそろ終わり。

フランスではその年ごとにも違うのですが、だいたい10月頃〜2月15日頃までが狩猟期間。
クルティーヌでも2月1日に届いたベキャス3羽と山鳩2羽で、今期最後になります。

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ジビエと言えばやっぱりジビエの王様と呼ばれるベキャス(やましぎ)。
ベキャス(ヤマシギ)は、まだ単発銃を使う頃の狩猟師にとって非常に撃ち落とすのが難しい鳥でした。緩急のスピード差をうまく使い、急降下や急上昇、旋回と、空を自在に飛び回るので、腕の良い猟師にしか仕留められなかったのです。
しかもその肉は、胸肉が非常に発達し、脂も程よく、内蔵が非常に美味。
そうなっては、猟師の腕比べ、自慢、貴族の晩餐などで、非常にもてはやされただろうことが容易に想像出来るわけで、希少価値が高く、高価な取引のもと、乱獲されたという事実が、用意に理解できます。
現在では、フランスではベキャスは禁猟とされ、当店で使っているベキャスはスコットランドから届く数少ない貴重なものです。

さて、一昨年の冬からやっとベキャスを扱えるようになって以来、常連様からリクエストをいただくたび、勉強し、腕まくりして、『ミュー・ゾン・ミュー"de mieux en mieux"』を意識しながら調理をしております。
『ミュー・ゾン・ミュー"de mieux en mieux"』は、イブ・シャルルからよく言われた言葉で、”より良く”、とか、”ますますいい物になる”といった意味です。


まずは丁寧に羽毛を手で取ります。
熟成が進んだ状態での作業なので、表皮が破れやすいため、できるだけ優しくとります。
手の温度で、ベキャスの脂がにじみ出やすくなっているので、できるだけ素早く作業を終えなければなりません。
優しさと素早さの両立を突き詰めて、とても神経を使う作業です。
内蔵を抜き、軽く紐で結び、形を整えます。(ベキャス以外は、基本的に紐は使いませんが。)

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ベキャスは丸のままバターとエシャロットとニンニク一欠片、月桂樹の葉、タイムと共に色付け、サラマンドルという、上火焼きの機材でゆっくりロースト。
そして、少し暖かい場所に休ませておき、提供時にもう一度バターとエシャロットとニンニク一欠片、月桂樹の葉、タイムをくわえ、それらの香りを含みながら溶け出したバターをベキャスに回しがけ続けるアロゼという技法を用いてしっかり温めます。

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さばくと、ちょうど綺麗に火が入ったロゼ色の肉となります。この火入れが、ベキャスはジビエの食材の中では群を抜いて難しいと言われ、その筋肉質の一歩間違えて火を入れすぎればパサついた感じになってしまう肉質と、火入れが甘ければ、熟成の妖艶な香りを引き出しきれなくて、旨味の乏しい物になります。

過去の偉人が言う言葉に、『肉の火入れの才は先天性の才。こればかりは、いくら努力しようが、ダメなやつはダメ。』という言葉があります。
イブ・シャルルも、料理とは、『ビアン アセゾネ ビアンキュイ(良い塩加減と良い火入れ)」それがすべてだとよく言っていました。
人生が、突き詰めると命の尊さに行き着くように、命を料理することを突き詰めると、こんなにシンプルになり、そこをまず完璧に仕上げた上で、技術を重ねてゆかなければ、本末転倒。ただ美しいだけのお皿は料理とは言わない。ただ技巧的なだけでは命に対して誠実だとは思えない。


さて、そのベキャスの非常に繊細な肉質と香りですが、それは30年くらいたち熟したブルゴーニュの一級の赤ワインの感じ方に似ていて、『うオうまい!』ではなく、『ああ、美味しい・・・』という、優しく気品のあるバランスの取れた味わい。
一口食すたびに、心を静寂にし、目をつむり、味わいや香りを逃さないようにしつつ、余韻に浸る美味しさです。


この写真、ちょっとインパクトあり過ぎで、もう少し小さくしたいのですが、どうしたらできるのか分からないので、苦手な方は、ぱっと見てスクロールお願いいたします。
興味のある方はじっくり”ガン見”だと思いますが。。

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こちらは、さばいて胸肉と腿肉を外した後の骨。これを見るだけで、身が最高の状態である事が分かります。この骨を叩き、砕いて、バターで色付け、水とハーブを加えジュをとります。

ベキャスは、特に内蔵が美味しいと言われ、2週間熟成させたベキャスの内蔵を使ったソースは格別。

先程の、ベキャスの骨からサッと取るジュ(短時間で、香りと旨味を抽出した物)に、仔牛の骨や香味野菜とともに2日間かけて作る自慢のフォン・ド・ヴォーを少し加え、ベキャスの内蔵を刻み入れ、60℃くらいの温度まで熱し、裏ごして、ソースに。
余った内蔵はカナペにして添えます。
そうして出来上がった2週間熟成のベキャスを余すところなく使った、お皿がこちら。

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羽毛以外のベキャスのすべて、まさに、命をすべて盛り込んだ一皿となっております。

今夜もこれから、ベキャス、最後の一羽をご予約さているお客様を迎え、今期のベキャスは終了となります。
by courtine | 2014-02-18 17:31 | 今日のピックアプ
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